求命
男は切られた腕から、鎌を取った。こんな状態になっても、まだ抗おうとするのが信じられなかった。が、事実だ。鬼神のように立ち、友蔵の様子を伺っている。ただ、何故だろう。男は笑っていた。悦に入った表情は、逆に男達をすくみあがらせた。
血を吸った土からは、薄く湯気が上がっている。それだけ大量の血を飲み込んだ証拠だ。つまり、そこにいるのが人だとすれば、そんなに長くはない。血を失い、絶命するのも近いはずだ。
男が本物の鬼神なのか、それともただの人なのか。もうすぐ答えが出る。
「けけええええええ。」
やはり鬼神だった。あんなに大量の血を流した人間が、あんなに速く動けるはずがない。さっき友蔵に襲いかかった時よりもはるかに速い。瞬きをしていたら、その踏み込みに追いついていけない。
しかし、友蔵も獣だ。その動きを容易に捉えていた。そして叩き切った。精肉所で働いていた経験が活きたのだろう。牛や豚と同じように、男の脇腹を分解した。男は体幹をやられバランスを失った。激しく転がり、その拍子に鎌が刺さった。右目から、たぶん脳を貫通したのだろう。頭の左の後ろの方から、鎌の先が申し訳なさそうに覗いていた。
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