求命
大伍は声をかけられた。
「あの・・・。」
中年の男だ。左頬に大きな傷がある。大伍はその傷を見ないようにと思うが、気になりその傷ばかり見てしまう。
「あ、気になりますか?」
「・・・い、いえ。」
「いいんです。正直に言って下さい。みなさん、この傷が気になるって言います。あなたも、そうなんでしょう?」
穏やかな口調なのに、何故か威嚇されている気がする。
「あ、いや、その・・・。すみません。」
「気にしないで下さい。それより、隣いいですか?」
「ど、どうぞ。」
断ってはいけない。かと言って、この場を離れるのもまずい。威嚇はまだ続いている。大伍は蛇に睨まれた蛙だ。
五分ほどの沈黙のあと、男が口を開いた。
「いつもここにいますね?」
「あ、はい。」
その言葉に汗が滲んだ。なんで知っているのだろう、それが不思議でならない。
「どうして、それを知っているんですか?」
「・・・。」
沈黙が長く感じる。
「どうして?」
もう一度、大伍は聞いた。
「たいした事ではないですよ。私も・・・私もこの公園によく来るだけです。その時にあなたを見かける。だから、よく来る事を知っている。ただ、それだけの事です。」
本当にそうなのだろうか。大伍は釈然としない。しかし、これ以上聞いても無駄だ。もし真実は異なっていたとしても、のらりくらりとこの独特の口調でかわされるに違いない。
「そうですか・・・。それで、何か用ですか?」
「これは失礼。本題を忘れていました。少し聞きたいのですが、いいですか?」
聞きたい事があるせいなのか、男の威嚇は弱まった気がした。
「どんな事でしょう?」
「答えにくいかもしれませんので、その時は言って下さい。」
まず、前置きをした。こんな前置きをされると、つい構えてしまう。大伍は次の言葉を待った。
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