求命
「お、おい。香川、どこに行くんだよ。」
横目で香川が走っていくのが見えた。まだ、村上は怒鳴っていたが、そんなのに構っているわけにはいかない。それは香川の勘の良さを、山本は身をもって体験した事が何度もあるからだ。推理ではない勘だ。香川が右だと思えば右に犯人がいたような事が何度もあった。今日もそうではないか、そう思わせるような走りだった。
香川は走る。とにかく走る。この時のために体を鍛えていたと言ってもいいくらいだ。
<間に合ってくれ。>
祈るような思いで天を仰ぐ。瞬間、雲が太陽を隠した。暗雲垂れこめるとはこう言う事を言うのか、不安になった。
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