求命
外回りの営業と言うのは、ある意味気楽なものだ。パトカーのサイレンを聞き、何人もの野次馬が集まっていた。黒のコートに身を包んだサラリーマンが、その中に何人も見受けられた。
そこに大伍の父の姿もあった。
<何があったんだ?>
かなりの数のパトカーだ。普段なら野次馬などしない父も、さすがに今回ばかりは気になった。多くの野次馬の後ろから、その現場を覗いた。
なんて言うのだろう。どうしようもない感情が渦巻いた。今、自分のした行動を取り消したい。いや、それ以上に生まれてきた事を取り消したい。取り消したい、取り消したい、取り消したい・・・。でも、それは無理な事だ。時は父の思いとは関係なしにどんどん過ぎ去っていっていく。
それが無理だと理解すると、今度は別の気持ちが芽生えてきた。
“大伍を救いたい”
手錠をかけられた息子が今、警官に両脇を抱えられパトカーに乗り込められようとしている。どうにかしたい。助けたい。代わってやれるものなら代わってやりたい。親心とはそう言うものなのだろう。もどかし願いが膨らんでいく。
体が急に重くなった。同時に見ていた景色に靄がかかっていく。意識を保っていられない。消えていく。
父は父でなくなった。大伍の父だから、波長のようなものが似ていたのだろう。そして大伍を救いたい気持ち、警官を憎む気持ちに、引き寄せられていったのだろう。顔に傷が表れた。
ただ、完全に同期できない。どこかおかしな部分があった。例えば奇声、父だった男は小さな声で奇声をあげはじめた。
「けういいいぃぃぃぃ。」
一歩前に出る。
「けいうぅぅぅ・・・。」
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