求命
そこに隣の街から来たのだろうか。少し疲れた感じで、大きな荷物を背負った若い女が倉の前を通り過ぎた。それから、三分ほどしてからだろう。男が動き出した。気配を殺し、女の後をつける。
<やはり・・・。>
その時には、皆がそう感じていた。ただ、このままでは男を捕まえる訳にはいかない。証拠がないからだ。少なくても、さっきの女には悪いが、殺される寸前の所で取り押さえなければ、言い逃れされたりする可能性がある。それだけは避けたい。これだけ人数がいれば、返り討ちに遭う事もないだろう。女を守ってやる事も出来る。それまでは辛抱してもらおう。そんな風に思ったかは知らないが、今度は皆で男の後をつけた。
そんなに時間はかからなかった。なぜなら、そのまま女を歩かせていては、女が街の中心に向かってしまう。そうなっては殺せない。だから、ここぞと思ったところで行動に出た。
一気に駆け寄り、女を押し倒した。いつものやり方だ。
「いやっ。」
それだけ言うと、女は男に馬乗りにされた。男の重さも手伝って、うまく声を上げる事が出来ない。
「や、やめて。」
それに対して、男は目で返事をする。
<お前を殺す。>
それ以上でも、それ以下でもない。
男の手が、女の首に掛かった。その時だ。声が聞こえた。
「やめろ。」
「そうだ。動くんじゃない。」
とっさに声の方を向いた。そこにはさっき集会場で見た男達の顔があった。
「?」
一瞬、何が起きたのかわからなかった。しかし、すぐに理解した。この状況は実にまずい状況だ。
「違うんだ。」
「違う?何が違うんだ?」
そう言ったのは、妹を殺された男だ。
「だから・・・、なぁ、わかるだろ?」
「何をわかると言うんだ?」
どう考えても言い逃れできる状況ではない。すると、男は女から降り両手を挙げた。
「観念するって事か・・・。」
あらかじめ用意していた縄を、麻で出来た鞄から取り出そうとした時だ。男が奇声をあげ向かってきた。
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