求命
「くけけけけけけ。」
人のそれとは思えない声に、何人かの男達はたじろぎ、男を止める事が出来なかった。狙いはひとりだ。そのひとりを目掛け、一気に近づいた。そして拳を振り上げる。鈍い音とともにはじけ飛んだ。
「友いっつあん。」
妹を殺された男の名は友蔵と言った。仲間からは“友いっつあん”と呼ばれている。その友蔵は、小さな植え込みの中へと消えた。
「お、お前、何するだ?」
何人かの男達は、集会所から自宅に寄り、鍬だの鎌だのを用意していた。その鍬を振り上げ男を威嚇する。しかし、男にそれは効果なかった。そんな男達にも一気に詰め寄り、殴りかかる。一人、二人、三人・・・。とても人とは思えない動きに、皆が翻弄された。
「なんなんだ?いったい・・・。」
闇雲に、一人の男が鎌を振り回す。瞬間、鮮血が舞った。
「うわっ。」
まるで、自分が切られたかのように声を上げる。しかし、その血は男のものだ。その証拠に男の左頬が大きく切れ、そこから大量の血が流れている。
人とは不思議なものだ。その血を見て、男は観念するとでも思ったのだろう。急に強気になり、男に襲いかかった。
「ほらっ、みんな、やっちまえ。」
「おおうよ。」
鍬を一気に振り下ろす。しかし空を切り、地面を耕す事になってしまった。鎌をもう一度降る。しかし、男の血がべっとりと付いた鎌は滑りやすかった。事もあろうに、男は鎌を放り投げてしまった。そして、それが男の手に渡った。
「けけけぃぃぃぃぃ。」
鎌を手に持った姿は、もう人ではない。さながら、死に神と言ったところか。形勢は逆転した。勢いは失せ、男達は後ずさりを始めた。
「どうする?」
「そんな事言ったって・・・。」
お互いに目を合わせ、目で会話をしている。頭には逃げる事も浮かんでいた。さっき襲われた女も、気がつけば逃げてしまっている。自分達が逃げたところで、特に問題はないだろう。そう考えてもおかしくはない。
「うおおおお・・・。」

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