気づけば、あなたが
ほんの何時間前、この場所を通った。


陽介にとって、いつもとは違う朝だった。


やがて杏の家に到着する。


車庫には車がなかった。



・・・まだ戻ってないのか・・・。



陽介はフッとため息をつくと、その場を去った。




それから杏が自宅に戻ったのは、夕方近くになっていた。


初めのうちは熱はあったものの、薬が効いてきたのか夜には平熱に戻った。


軽く食事を取ったあと携帯のメールに目をやった。


ほとんどの内容は、「大丈夫?」とか「試験どうだった?」など。



でも、その中でちょっと気になるメールが・・・。


坂本佳奈だった。


佳奈のメールはたわいもない内容だが、所々に陽介の名前が出ていたのが気になった。


佳奈、陽介の事が好きなのかな・・・?




杏は陽介が紅南高を受験する事は、今朝まで全く知らなかった。


佳奈は・・・知ってたから?



杏は今まで意識していなかった事。



自身さえ気づかなかった心の扉。


その鍵穴に差し込まれた感情の鍵。

杏は意識し始める。


陽介という男性を。
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