気づけば、あなたが

受験日

その日は朝から落ち着かなかった。



「杏、忘れ物はないの?」


母にそう言われて、もう一度カバンの中を確かめる。



ペンケースにお財布、御守り・・・マスクとあとナンだっけ?



「ほら、そろそろ行かないと電車の時間に遅れるわよ」



急かされて靴を履いた。


「行ってきまーす!」


「ガンバレ、杏」



杏を見送って、げた箱の上の細長い紙に気づいた。



「やだぁ! 受験票忘れてる!!」


母親は慌てて表に出たが、娘の姿はもう見えなかった。



・・・もう、試験受ける前から落ちちゃう・・・


こうなったら追いかけるしかないか・・・


そう思った矢先、


「おばさん、おはよう!」


声のする方へ振り向いた



母親はニンマリしながら



「今日は陽ちゃんが救世主に見えるわ!
お願い、これを杏に届けて!」



ウルウルした眼差しの母親。



「大丈夫、チャリとばせば間に合うよ」


そう言うと彼は本当にすっ飛ばして行ってしまった。



・・・陽ちゃんも受験、ガンバレ!



そんな慌ただしい朝の始まりだった。
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