加納欄の記憶喪失 シリーズ5
高遠先輩は、笑いながら大山先輩の病室の扉を開けて入って行った。

あたしも、その流れで自然に入れた。

「タカなにやってんだよ。ノックから入ってくるまでが長ぇって」

「悪ぃ。欄と話してた。こいつアホなんだもん」

と、言ってあたしの頭をグイッと大山先輩の方へ、つきだした。

「お~、昨日の子。悪かったな、昨日は」


キノウノコ・・・。


ハァァァァァ。


「あの、私、加納欄って言います。よろしくお願いします」

あんまり、大山先輩の顔を見れなかった。

「欄ちゃんだろ?覚えたよ」


オボエタヨ。


オボエテルヨ。


じゃなくて、オボエタヨ・・・。


そのあとの言葉が見つからなかった。

「祥子は?」

大山先輩が、高遠先輩に聞いた。

「いや、今日はまだ見てねぇけど用事?」


さっき会いましたけど。


報告はしなかった。

「いや、特にないけど」

「なんだよ、それ」

「だから、特にないって。タカが来たから祥子も来たのかと思っただけだよ」

「あのっ!私、会いました。祥子先輩と。署に、連絡するって、行っちゃいましたけど」

大山先輩を見た。

「・・・そっか」

大山先輩の表情を見て、ズキンとした。

「ここにいても暇だし、退院でもするかな」

大山先輩が言った。

「お前はまだ入院だよ。退院していいのは、欄だけだ。ま、しばらく仕事のことは忘れろよ。ボケーっとしてたら、案外記憶も戻るかもしれないぜ」

大山先輩は軽く笑った。

「記憶?ちゃんと覚えてるって。まぁ、犯人の顔は覚えてないけどな。それ以外の事は覚えてるぜ」


え?


オボエテルの?


そして、大山先輩はあたしの顔を見て。

「あ・・・」

と、言った。


大山先輩の心の中には、片隅にもあたしは、いないんですか?


「悪い・・・」

大山先輩に、謝られた。

笑うしかなかった。

「な、なに言ってるんですか。謝るのは私のほうですよ。大山先輩、私かばってこんな目にあっちゃったのに。ホントに申し訳なくて・・・」

「・・・いや」

大山先輩は、何かを思い出そうとしたけど無理だったようだ。

< 10 / 50 >

この作品をシェア

pagetop