加納欄の記憶喪失 シリーズ5
「欄、そろそろ行くぞ」

高遠先輩に、促された。

「・・・はい」


別に、何かを期待して、大山先輩に、会ったわけじゃない。


しばらく会えないから・・・だから・・・。


大山先輩があたしのこと覚えてないのは、昨日分かったじゃない。


だから、また初めからやるだけだって、決めただけじゃない。


なのに・・・。


なんでこんな気持ちになるの・・・?


さっき、ちゃんと気持ちの整理してきたはずなのに・・・。


大山先輩とこうして話してると、あたしとの出会いが全否定されている気分になる・・・。


初めて出会って、接し方が分からないって、困ってた日のことや・・・。


孔明師範が会いに来た時に助けてくれたこととか・・・。


風邪をひいて、あたしに甘えてきたこととか・・・。


バレンタインにチョコ渡したら、ホワイトデーにお返しくれたこととか・・・。


あたしの大切な思い出、大山先輩の中には、どれも残ってないんですね・・・?


「欄、早く行くぞ」

高遠先輩に、言われた。

あたしは、大山先輩を見つめた。

大山先輩も、見つめ返してくれた。

「なに?欄ちゃん」

「・・・いつも通り、欄って呼んで下さい。欄ちゃんって、他人行儀みたいです」

「あぁ、ごめん。欄ちゃんのこと、欄って呼んでたんだ」

決定的だった。

大山先輩は、あたしのこと、本当に覚えていなかった。

「そうですよ。大山先輩は、あたしのこといつも、欄って、呼び捨てなんです。だから、欄ちゃん、なんて呼ばれたら、気持ち悪いです」

たぶん、笑いながら話せたと思う。

「わかった。欄、だな」

大山先輩も、笑ってくれた。

「はい。じゃ、私は退院して明日から犯人逮捕に頑張ります」

大山先輩に向かって敬礼をして病室を出た。

部屋を出たら、祥子先輩が外で待っていた。

「あの、祥子先輩。お願いがあるんですけど」

「なに?」

「私、なかなか病院に行けないと思うので、祥子先輩が来れた時で構わないので、大山先輩の部屋にお花か何か、差し入れしてもらってもいいですか?もちろん代金は支払いますから」

「・・・欄ちゃん・・・いいわよ」

「ありがとうございます」



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