加納欄の記憶喪失 シリーズ5
 あたしの存在通り越して、あんな、ストレートに告白して。

 今のあたしには、逃げることで、今のあたしを立たせていた。

 あたしの頭の上にポンッて、手がおかれた。振り向くと、高遠先輩が立っていた。

「お、おはようございます」

 高遠先輩の表情は、全てわかっている表情だった。

「ホントに完治したのか?」

「し、しましたよぉ、だから、今から外回り行くんじゃないですか」


 ウソだった。


 あたしの、肩は完全回復なんてしてない。


 薬があるから痛くはないけど、医者からも急激な動きはしないようにと言われていた。

「オレと組むか?」

 高遠先輩が、言った。

「残念です。吉井さんと行けって課長命令なんですよ」


 もちろんウソ。


「何たくらんでる?」


ドキッ!


「い、いやですねぇ。企むって、失礼ですよ。さぁてと、吉井さんとお仕事はじめよぉ、吉井さん、私先に行ってますからね」

 やっぱり、高遠先輩はめざとかった。

 コートを着て、南署305の覆面車に乗り込んだ。

 5分ほどして吉井さんが車に来た。


「よし、じゃ、出発するか、この資料に目を通しておいて、今日周る所だから」







< 15 / 50 >

この作品をシェア

pagetop