加納欄の記憶喪失 シリーズ5
 完敗だったけど、何かとあたしを守ってくれるようになった。でも遼は、あたしが孔明師範から逃げる1年くらい前に、修行をしに行く。と言って、あたしから離れた。

「・・・遼なの?」

 相手も、あたしの顔を真っ直ぐに見た。

「欄?」

 あたしは、小さく頷いた。

「ホントに欄か?よく顔を見せてくれよ」

 あたしは、ゆっくり遼の所に歩いて行った。

「大人になったね遼」

「お前は綺麗になった」

「バカ。お世辞なんていいよ」

「前から思ってたさ。中国にいた時から。欄は綺麗だって」

「い、いいよ。そんなこと言わなくて。恥ずかしいよ」

そう言うと、遼が突然あたしを抱きしめた。

「遼?」

「ホントに欄なんだな。会いたかった・・・。ただいま」

「・・・おかえり」

「1度孔明師範の所に立ち寄ったんだけど、欄はいないって言われたんだ」

「うん。逃げたの。遼が、修行に行って1年くらいたった後かな」

「そうか・・・相変わらずだったのか?」

「・・・・・・」

あたしは、答えなかった。

でも、それが返事だった。

あたしと遼は久しぶりの再開に抱擁を交わした。

なぜか気持ちが落ち着いた。

まるで最近の嫌なことが、癒されている気分になった。

あたしは、遼から離れた。

「今はずっと日本にいるの?まだ、修行続けてるの?」

「3年くらい前から日本にいるよ。欄も来てたなんてな。修行はしてる。昔とは違うけどな。いろんな意味で修行してる」

「そう。遼、なんでこんな場所に1人でいたの?」

聞いたあとに、職業病だな。と、少し思った。

久しぶりの再開なのに、質問して。

「なんでって・・・なんでそんなこと聞くんだ?」

「ごめんっ。私、今、刑事なの、最近ここで事件があって・・・」

 刑事と聞いて遼の顔が、驚いた顔になった。

「まぁ、1人でいたら、怪しまれてもしかたないか。ここは、俺の修行場所にしてるうちのひとつだ」

 と、言った。


ここを・・・?


「最近ずっと?」

「前からずっと」

「1週間前は来た?」

「1週間前?」

 遼は少し考えこむと。

「いや、たぶん来てないよ」

 と、言った。

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