加納欄の記憶喪失 シリーズ5
 大山先輩の肩や腕や頭に何度も木刀が降り下ろされるたびに、大山先輩は唇を噛みしめた。

「大山先輩!どいてくださいっ!私が行きます!」

 大山先輩の瞳がうつろだった。


ダメだよ!


死んじゃうよ!!


「大山先輩!!大山先輩っ!!私は大丈夫ですからっ!」

「ら……ん……」

 そして、大山先輩はドサッと、あたしの上に倒れこんだ。
 あたしの何処かがプツッと切れた音が聞こえた。
 あたしは、倒れてきた大山先輩を、優しく地面に寝かせると、立ち上がり男を見た。
 口からはよだれをたらし、鼻血は拭かれないまま口元まで流れ、瞳孔が開いてるのがわかった。


ヤクチュウか……(-.-)


フザケンナよ……。


テメェの快楽の為だけに好き勝手やりやがって!


「お前殺せば、プレゼントもらえるんだよ。だから、死ねや」

 男は冷静に話したつもりらしいが、声は小刻みに震えていた。
 あたしは、男を冷ややかに見つめた。

「……なんだよ」

 あたしは、さらに無言で見つめる。

「見てんじゃねぇよ!!」

 男は、あたしに向かって突進してきた。
 右肩をやられてるあたしは、体勢を低くし左足で男の急所に蹴りを入れた。
 男はかなり痛いのか(女のあたしには、わかんないよ)身体をくの字にまげた。
 その瞬間を見逃さず、あたしは立ち上がり、男のコメカミ目掛けて回し蹴りを決めた。
 男は先程と同じように大の字に倒れた。
 あたしは、大山先輩の所に駆け寄った。

「大山先輩!大丈夫ですか?目を開けてください!大山先輩?!」

 大山先輩は苦痛の表情のまま、気を失っていた。
 ただ、頭から血が流れているのがわかった。
 あたしは、慌て南署に連絡を入れた。

「加納です!誰かいますか?」

「こちら南署。どうぞ」

「阿多岸倉庫巡回中襲われました。至急救急車お願いします!大山先輩が!大山先輩が!!」

「欄ちゃん?!落ち着いて!状況を教えて!今、応援に高遠さんと吉井さんが行ったわ。欄ちゃんは大丈夫なの?」

 その時だった。

「私は」

大丈夫です。

 と、言う前に、後ろから誰かに殴られた。


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