加納欄の記憶喪失 シリーズ5
 車に乗り込むと、遼がエンジンをかけた。

「遼、先輩達ホントに大丈夫なの?」

 あたしは、2人の先輩が倒れている方向を見ながら、遼に話した。

「大丈夫だって」

「だって!かなり苦しそうだったよ。何もあそこまで!」

「欄はさっきの奴等に、あそこまで出来ないだろ?だからやったんだよ。犯人を逮捕したいんだろ?」

 確かに、あたしは、高遠先輩にも苫利先輩にも、手刀を使うなんてことしたくない。

 あたし達が孔明師範から教えられた武術は護身術だが、裏を返せば武器になる。

 手加減しないと、相手を殺してしまう時だってあるかもしれない。

 だからこそあたしは、護身術としてしか使わないようにしている。

 後は、前に大山先輩に、もう少し女らしくしないと男が来ない。と、言われ、大山先輩の了承のもと相手に対して、使うようにしている。

「ごめん。ありがとう」

 あたしは、座る体制を座席と同じように前に座り直し、頭を下げた。

「俺は欄が好きだ。欄のためなら、何でもしてやる」


・・・え?


 耳を疑り、思わず遼の顔を見た。

 遼の真剣な瞳と目があった。


 あたしは、慌てて目線をそらした。


なんで?


え?


「欄が好きだ。中国にいた時から、ずっと。欄のために強くなりたいと思ってた」

「あの、でも・・・」

 面と向かって、男の人から告白されたのは初めてだった。

 しかも、あたしも想いを寄せたことがある人。

「待って、そんな、突然」

 頭が混乱しそうになる。

 あたしは、顔をまた正面にむけ、頭の中を整理したかった。

 遼は、車をスタートさせた。

「中国にいた時は言えなかったけど、ずっと好きだった。孔明師範から、欄を取り戻したくて、あの人の下にいても強くなれないと思ったから修行に出たんだ」

 遼の話してる言葉が、聞こえてるようで、聞こえてないようで。

 あたしの頭の中には、大山先輩が、祥子先輩に告白した場面をこんな時に思い出していた。

 祥子が好きだ。と、言った大山先輩。

 その言葉を聞いて、顔を赤くした祥子先輩。

 なぜか、あの時の事を思い出していた。


確かに、お似合いだよね。


あの2人は。

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