加納欄の記憶喪失 シリーズ5
 振り向いただけだったら、完全に殺られていた。

「遼~。何企んでるのよっ!」

「速効性の睡眠薬飲んだわりには寝起きいいな」

「こいつら使って私に何しようとしてんのよ!」

「次はもう少し入れてもいいか?」

 質問と答えが成立していない。

「遼!」

「試しただけだよ」

「何をよ!」

「何をって。俺の欄が、昔のままかどうか。ま、刑事やってるくらいだから、ある程度は使えると思ってたけど、それにしても、こいつらなっさけねぇなぁ」

 遼はそう言って、未だに気絶している男の頭をコツンと、靴でつついた。

「いい加減にしてよ。悪ふざけが過ぎるよ!私が、嫌いなの知ってるでしょ?」

「嫌いだろうが、関係ない」

「いい加減にしてよ!だいたい何なのよ!こんな格好にされて、縛って、金で雇って、何がしたいのよ!」

「こんな格好って、男心くすぐるだろ?そういう格好は。わざわざ紳士サイズ着せたんだぜ」


わざわざって……。


「何のつもりで日本にいるのよ。料理人なんでしょ?なんで、こんなことするのよ」

 遼が、笑った。

「まだ、気付かないのか?」

「・・・」

「お前を、組織に戻すためさ」


え?


組織・・・?


「組織って、まさか・・・」

 あたしの意識が、グワ~と揺れる。

「遼・・・まさ、か・・・孔明師範の所に・・・戻っ、たの・・・?」

 目の焦点が合っていない感覚に陥った。

「後にも先にも、俺の師範は、孔明師範だけだけど?」


 息が、うまく吸えない。


「孔明師範より強くなる為に、修行に行ったんでしょ?」

「・・・」

「私を、守る、為に、強くなりたいからって・・・」

「アッハッハッハッハ。欄、それ信用してたの?実は俺、修行なんかに行ってないんだよ」


え?


行って、ない?


「何言ってるの?」

「修行じゃなくて、組織の仕事してただけ。だから、あそこにいなかったのは事実だけどな」

「なんで・・・?」

「なんで?何が?」

「なんでこんなことするのよ?!」

 あたしの怒りが絶頂に達しそうだった。
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