加納欄の記憶喪失 シリーズ5
 あたしは、動けなくなり、遼に対して、何も出来なくなった。

 遼の手があたしの首筋にそっと触れた。

 親指で、クイッと軽く顎を上げられた。

 遼はそのままキスをしてきた。

 片方の手は、あたしの足をまさぐっていた。

「孔明師範にも、こんな風に抱かれてたんだろ?毎晩毎晩見てて飽きなかったよ。今日からは、俺が抱いてやるからな」

「いやぁ!遼!いやっ!」

 あたしの頭の中に、孔明師範から受けた凌辱がよみがえっていた。

 何度も嫌だとお願いしても、孔明師範は、止めることもなく、自分の欲望のためだけに、あたしを毎晩抱いた。

 その時の嫌悪感が、後遺症となり、首筋を触れられると、どうしても動けなくなるのだ。

「遼・・・お願い・・・」

 遼は、唇にキスするのを止めると、唇を肌に密着させたまま、胸のほうへ這わせていった。

 遼の手が、ブラジャーに手をかけ、ブラジャーを取り除こうかとした時に、第3者の声が聞こえた。

「そこまでだ」

 遼の動きが止まった。

 あたしも、声のする方へ視線をめぐらした。

 声の主は、高遠先輩だった。

「高遠先輩!!」

 遼は、ゆっくり振り向き、あたしを立たせた。

 破かれたブラウスに、下着だけの姿のあたしを見て、一瞬高遠先輩が目線を外した。

 その隙をついて、遼はあたしを高遠先輩に突き飛ばした。高遠先輩は、あたしを受け止め、遼を追おうとしたが、その時は、遼はもう逃げていた。

 あたしは、その場に座り込み、ボタンが取れているワイシャツの前を両手で合わせた。

「欄、大丈夫か?すまない遅くなって」

 高遠先輩は、そう言いながら自分の着ているコートを脱いで、あたしにかけてくれた。

 あたしの洋服は、ハンガーにはかかっていたが、後ろ身ごろがカッターでご丁寧に切り裂かれ、とても着れる感じではなかった。

「地下に入ったら、コイツの電波が微弱になりやがって、探すのに手こずった」

 コイツと、言いながら、高遠先輩は、あたしの左耳につけている真珠のピアスに触れた。

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