加納欄の記憶喪失 シリーズ5
「改良しないとな」

 一見ピアスに見えるコレは、発信器を兼ねていた。

 あたしは、睡眠薬を入れられて、倒れる直前に発信器を作動させたのだ。

 高遠先輩には、その前に、1人で頑張るとタンカをきったけど、それとこれは違う問題だ。

 あたしの身に何か起きた時だけ、発信器を作動させることになっている。

 今回も、コレのおかげで高遠先輩が来てくれた。

 あたしは、放心状態だった。

 いまだに、まとわりつく孔明師範の陰。

 久しぶり再開した、遼の本心。

 あたしの未熟さ。

 高遠先輩が、あたしを抱え立ち上がらせようとしてくれた。

 あたしは、されるがままに立ち上がり、歩こうとしたが、足がもつれ、うまく1歩が出せなかった。

 放心状態のあたしを見て、高遠先輩が、あたしを抱き上げた。

 あたしの頭の中には、いつまでもいつまでも、孔明師範と遼の笑い声が聞こえていた。

「欄っ!しっかりしろ!欄っ!」

 高遠先輩が、声をかけていたことさえも聞こえていなかったのだ。




 あたしが、落ち着きを取り戻したのは、また病院のベッドだった。

 1日入院することになった。

 肩も診てもらった。

 激しい運動は禁止だったのだけど、今回かなり動かしてしまったので、処置と痛み止を打ってもらった。

「欄、起きてるか?」

 病室に高遠先輩が入って来た。

「あ、おはようございます。すみません」

「もう夜だよ。大丈夫か?」

 高遠先輩は、近くにあった椅子に座って、あたしを見た。

「大丈夫ですよぉ。明日から、また仕事頑張りますから」

 声には張りがなく、単調な音程で、話していた。

「そのことなんだけどな。欄、今回の事件からは外れろ。今のお前じゃ、戦力外だ」

 高遠先輩に言われたが、あんまりショックじゃなかった。

「はい」

 素直に返事もしていた。

「仕事には来てもいいが内勤だ」

「はい」

 あたしが、あまりにも素直なので、高遠先輩は不安に感じたようだった。

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