加納欄の記憶喪失 シリーズ5
髪乱れてない?


服乱れてない?


病室の中から笑い声が聞こえた。


あ、高遠先輩の声も聞こえる。


大山先輩、思ってるほどひどくないのかも。


よかったぁ。


あたしは、病室の扉を開け中へ入った。

「何言ってんだよ」

と、笑いながら、ベットに横たわっている大山先輩。

「お前がアホなこと言うからだろ」

と、高遠先輩。

「まぁ何にせよ。元気そうでよかったよ」

と、鮎川さん。

「だから言ったでしょ?死にゃしないって」

と、祥子先輩が言った。

あたしが入ってきたのに気付いて。

「欄君も大変だったね」

と、鮎川さんに言われてた。

「あ、いいえ。私なんて、大山先輩に比べたら全然……」

そしてあたしは、大山先輩の前に立ち。

「大山先輩、かばってくれてありがとうございました。このご恩は忘れません」

と、深々とゆっくりお辞儀をした。

「なぁに言ってんのよ。当たり前のことしただけよ。謝ることなんてないのよ」

と、祥子先輩。

「欄君の気持ちじゃないか」

と、鮎川さん。

「愛だろ愛」

と、小声で高遠先輩。

あたしは、お辞儀をやめ大山先輩を見た。

頭に包帯がぐるぐるに巻かれていた。

「本当にありがとうございました」

もう一度お礼を言った。

「え?誰?」

大山先輩の口から出てきた言葉だった。

次の言葉は。

「助けた?俺が?」

あたしの頭の奥がグラッと揺れた気がした。

大山先輩は、笑ってはいなかった。

「大山先輩?」

聞き間違いかと思い、あたしは大山先輩を呼んでみた。

「タカ・・・。ちゃんと説明しろよ」

大山先輩は、あたしの言葉を無視して高遠先輩に声をかけた。


一瞬にしてあたしの、いや皆の表情が強ばった。

「い、いやぁねぇ。大山さんどうしたのよ。欄ちゃんじゃない。何わざと知らないふりしてるのよ。悪質よ」

祥子先輩が何とか言葉を発した。


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