加納欄の記憶喪失 シリーズ5
「祥子、お前も知ってるのか?」


え・・・?


「仁、欄だろ?」

「だから、知らないって言ってるだろ?」


え・・・?


「大山。じ、冗談が過ぎるぞ。欄君が驚いてるだろ?」

「鮎川さんも知ってる子なんですか?え?どこの配属?だって、うちの署で見たことナイじゃん」


・・・・・・。


見たこと・・・ナ・・・イ?


大山先輩が何を言っているのかが、理解出来なかった。


この後の事は、覚えていなかった。

気が付いたら、自分のベットに座っていた。

ただ何にもしていなかったみたいで、夕飯に運ばれていたらしいお膳が冷めていた。

大山先輩から発せられた言葉が、頭の中で、何回も何回もリピートしていた。



誰?



だって、うちの署にで見たことナイじゃん。



知ってる子?



だって、見たことナイじゃん。



ナイ、じゃん。



ナイ。



ナイ。ナイ。ナイ。ナイ。ナイ。ナイ。ナイ。ナイ。



耳をふさいでも、大山先輩の声が、ハッキリと聞こえた。

眠れないまま朝を迎えた。




その日の夕方には、大山先輩が検査をした、ということが聞こえてきた。

検査結果は・・・。

記憶喪失。

あたしの記憶だけがスッポリぬけているらしい。

他の人はわかるし、日常にも何にも問題はないらしい。

ただ、あたしのことだけが消去されてしまっているのだ。


どおして・・・。


なんで・・・。


あたし・・・?


考えることは、いつも同じ言葉だった。

いつも、お昼に顔を出す、祥子先輩さえも、今日はまだ来ていなかった。

あたしは、時刻が夕方なのだと西陽が窓を突き刺しているのをみてわかった。

ふと、あたしはベットから降りスリッパを履き、そのまま屋上へ向かった。

部屋を出ると、向かいの部屋から、大山先輩と看護師さんの笑い声が聞こえた。

あたしは、その声を無視し、エレベーターで屋上へ向かった。


< 6 / 50 >

この作品をシェア

pagetop