Comfortable
教室には鍵もかかってなくて埃っぽかった。


「あのさ……」


窓に頭をもたれながら口を開いた笹山。


窓の方を向けば、1年生が体育の授業をしているのが見えた。


「ん…?」


あたしはなるべく笹山の方を見ずに相槌を打った。


「俺さ…、別れたからって気まずくなるの嫌だから今までの友達通りになろうぜ」


彼の言葉にあたしは「そうだね」と同意した。


普通なら別れたカップルは話さない事が多いかもしれない。


でも、それは変だってずっと感じてた。


過去はお互い好きだった同士なのだから気は合うはずなのに、どうして別れた途端距離を開けるのだろうと。


「なんか安心したよ、笹山。あたし、てっきりもう話してくれないと思ってたからさ」


あたしが笑いながら言うと笹山は複雑そうな表情を浮かべた。


「俺がもっとしっかりしてたら春原は傷つかずにすんだのかもな…。俺さ、仲辻の事が好きって気付いたの遅かったし」


彼の言葉にあたしは笑いながら答えるようにした。


「傷ついてなんかないよ。むしろ幸せだった。好きな人と一緒に帰れたりするのが」


あたしは相変わらず笹山の方を見ずに言っていたが窓越しに笹山と目が合うのを感じた。


「そうか……」


笹山はそう呟くとまた黙った。


教室は深い沈黙に包まれたが、前みたいに重い空気ではなく心地良い場所だった。
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