紫陽花
「君はこの前、紫陽花は嫌いだと言ったんだよ。」
「僕が、何故、」
「簡単に色を変えるのが気に食わないって。」
「本当に、」
「紫陽花の何処が好きなのさ、」
「直ぐに色が変わる処。」
僕はたまらず、ふきだした。
「支離滅裂じゃないか。」
「だって・・・」
「そういう処が紫陽花に似てるのさ。君の記憶も明日になれば色を変える。」
「確かにね。」
蘇芳は軽く頷いて、何かを考えるように本を開いた。
「この本、面白い、」
「まぁね。他愛無い恋愛小説なんだけど、情景の描写は素晴らしい。」
「僕、一度読んだことあるよ。」
「だろうね。君が僕に勧めたんだから。」
「内容はほとんど覚えてる。でもね、どうしても主人公の名前が思い出せないのさ。」
彼は困ったように微笑んだ。
「僕の記憶には、むらがありすぎる。」
少し忘れっぽいだけだと云うけれど、彼は軽度の記憶障害。
それが何故か、蘇芳を一層魅力的に見せる。
「何かを忘れることは怖いかい、」
僕の言葉に、蘇芳は首を振る。
「忘れることが怖いんじゃなくて、忘れると思うことが怖いのさ。きっと君にだって、気付きもしない間に忘れてる事って、たくさんあるはずだよ。」
「僕が、何故、」
「簡単に色を変えるのが気に食わないって。」
「本当に、」
「紫陽花の何処が好きなのさ、」
「直ぐに色が変わる処。」
僕はたまらず、ふきだした。
「支離滅裂じゃないか。」
「だって・・・」
「そういう処が紫陽花に似てるのさ。君の記憶も明日になれば色を変える。」
「確かにね。」
蘇芳は軽く頷いて、何かを考えるように本を開いた。
「この本、面白い、」
「まぁね。他愛無い恋愛小説なんだけど、情景の描写は素晴らしい。」
「僕、一度読んだことあるよ。」
「だろうね。君が僕に勧めたんだから。」
「内容はほとんど覚えてる。でもね、どうしても主人公の名前が思い出せないのさ。」
彼は困ったように微笑んだ。
「僕の記憶には、むらがありすぎる。」
少し忘れっぽいだけだと云うけれど、彼は軽度の記憶障害。
それが何故か、蘇芳を一層魅力的に見せる。
「何かを忘れることは怖いかい、」
僕の言葉に、蘇芳は首を振る。
「忘れることが怖いんじゃなくて、忘れると思うことが怖いのさ。きっと君にだって、気付きもしない間に忘れてる事って、たくさんあるはずだよ。」