紫陽花
「随分と高尚なことを言う。」
「なんてね。本当はただの慣れさ。」
 おどけたように蘇芳は舌を出す。
「でも最近、眠るのが少し怖い。」
「何故、」
「忘れたくない事があるから。」
 そこで蘇芳は、視線を本に落とす。
「大事なこと、」
「・・・目が覚めて、もし、鉱のことを忘れていたら、どうすればいいのさ、」
 思いがけない台詞に、僕は一瞬戸惑い、机の上に突っ伏した。
「馬鹿だなぁ・・・」
 自然と笑いがこみ上げてくる。
「あのね。僕にとっちゃ、笑い事じゃないんだよ。」
「でもね、たとえ君が僕を忘れても、僕は忘れない。」
「でも僕は君に気付かない。」
「構わないよ。僕はまた、蘇芳と友達になる。何度でも初めからやり直すさ。」
 蘇芳は面食らったような表情を浮かべたが、
 やれやれと言うように肩を竦めた。
「鉱と話してると、全てがどうでもいい事の様に思えるよ。いいね。悩みがなさそう で。」
「それはどうも。」
 僕は顔を上げ、ふと蘇芳の髪に触れる。
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