相合傘

ジュンくんはおろおろと優奈に駆け寄る。
俺はアキラくんから右腕をぐいっと引っ張られて、体を起こされた。

「……アキラくん?」
「…お前、マジで意味分かんねぇ」

そう言うとアキラくんは、ぐいぐいと俺の腕を引っ張って歩きだした。
「ちょ、ちょっと、何!?」
「…怖ぇかもしれねぇけど、黙って着いてこい」

するとアキラくんはポケットからハンカチを取り出して、俺に手渡した。
それで血を拭っておけと。
 
…何だ?どういうこと?
『怖い』って。

店から零れる光で照らされた歩道を、アキラくんから手を引かれるがまま歩いた。
すれ違う人たちは、不思議そうな目をしていたり、不審そうな目をしていたり。
すると、ある薄暗い路地に入って、そこを突き進み出した。
人目に付かないところ、そこを男に誘導されている。

何処に行くか分からない。
何処に連れて行かれるか分からない。

たったそれだけの事だけど、俺は怖くなった。でも、アキラくんは言っていたから。

『…怖ぇかもしれないけど、黙って着いてこい』

そう言うってことは、何か疾しい事を考えているわけではなさそうだ。
そう思うんだけど、やっぱり怖い。
前方で白く光る街頭は、薄暗い路地の出口。
そこに辿り着いて、暗い辺りに目を凝らしてみれば、そこは見覚えのあるところだった。
 
マンションの近くの、道。
いつも歩いている、道。
 
アキラくんは何も言わずに、俺より少し先をどんどん歩いていて。
俺は手を引かれているけど、着いていくのに必死で。
そしてアキラくんは、当たり前の様に俺の部屋の前まで連れてきてくれた。
離された手は、握られていたところが赤くなっていて、それを見たアキラくんは、顔を少しだけ歪ませた。

「…あ、あの…」
「手ぇ手当したら、さっさと寝ろ!そんで、もう二度とあんな目に遭いたくなかったら、男としてでも女としてでも合コンなんかに参加するんじゃねぇ!!」
「……ぁ、はい…」

勢いに負けて返事を返すと、アキラくんは一つ溜め息を吐いて、くるりと振り返った。
ポケットから鍵を出して、それを差し込んだのはアキちゃんのお部屋の鍵穴。
ガチャリと鍵の開く音で、俺はハッとした。

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