相合傘
「…ぇ、何、コレ」
上がり込んで見た居間は、アキちゃんを想像させるものではなかった。
置かれている家具は、シンプルで。
アキちゃんが好きそうなピンクのものとか、いちご柄のものとかはなくて。
俺はペタンとその場に座り込んで、足元に落ちているソレを持ち上げた。
「……ヅラ?」
俺がアキちゃんと見間違えたソレは、アキちゃんと同じ色の、同じ型の鬘。
後ろで溜め息が聞こえて、俺は振り返った。
「…ここ、アキちゃんの部屋だよな?」
「そうだな」
「でも、見るからにここは男の部屋だよな?」
「あ~、そうだな」
「…アキちゃんは?」
「……」
そう訊くと、アキラくんは俺からヅラを取って、居間の端を指差した。
そこには、アキちゃんが来ていた服。
「ショウ、そろそろ気付けば?」
「……」
「本当は少しでも疑ったことあるんじゃねぇの?」
「…何、を?」
「“アキちゃんは”男の子じゃないのかって」
アキラくんは器用にヅラを被って、俺と同じ目線になった。
「ネッ!」
これでオレの言いたいことが分かっただろ?
そう言って俺を覗く瞳に、嘘の色は見えなくて。
でも…
「わ、分かんねぇよ」
微かに震えた声で返せば、アキラくんは少し悩んだ。
化粧してないからか?と呟いて手に掛けたのは、お化粧品がズラリと入ったあの黒いボックス。
鏡を見ながら手際良く手を動かし、見る見るうちに化けるその顔。
「どう?これで」
ニッコリと笑うその顔は、いつも見てきたアキちゃんそのもの。
「…こ、声が違うし」
そうだよ、アキちゃんはアキラくんの声よりも高かった。
特殊メイクなんて習得しようと思えば出来るもので、アキラくんが俺をカラかっているのかもしれないし…。
「じゃぁ…、これでいいかな?」
「…ッ!!」
そう言ったのはアキラくん。
でも…、それはアキちゃん。