相合傘
「これで分かったよね?ショウ」
「……」
何も返事をしない俺に、アキちゃん…いや、アキラくんは困った様に笑って、付けたばかりの化粧を落とす為に洗面所へ。
俺が、『男性恐怖症』だって話してからも、アキちゃんは一緒にいた。
……俺、大嫌いな男と一緒にいたんだ…。
アキちゃんは自分が、俺の嫌いな男だって黙ってて、俺といた。
バシャバシャと水の跳ねる音が止むと、タオルを顔に押し当てながらアキラくんが来た。
「…そんな怖い顔すんなよ」
俺を見て顔をしかめながら、冷蔵庫から水を取り出して一口飲むと、俺の前にしゃがんだ。
「ショウさ、男が怖いって言う割には、結構向かって行くよな。さっきの、ちょっと吃驚した」
静かに響く声。
それは何だか重みがあって…、どこか、怒っている様で。
「…あの時は、優奈を助けないとって思って、…それでいっぱいだったから…」
「…へぇ~、成程ね」
そう言って立ち上がると、アキラくんは居間の端の棚を探り出した。
そして白い籠を取り出すと手招きをしてきた。
「ココに座れ」
言われるがままベッドサイドに座ると、その箱から消毒液とガーゼと包帯を取り出した。
…ぁ、そういえば俺、手を怪我していたんだ。
今“アキちゃん”の事で頭いっぱいになって、忘れていた。
アキラくんは小さく『ゴメン』と呟くと、俺の手を取って、消毒を始めた。
「なんで合コンなんかに来てんだよ」
「友達に、参加して欲しいって言われて、…断れなかったんだよ」
「…ふ~ん。もう、あんな目に遭いたくねぇなら絶対行くなよ」
くるくると包帯を巻きながら、アキラくんは溜め息を吐いた。
…何なんだよ。人のことにいちゃもん付ける感じの言い方して…。
「別に、アキラくんには関係ないだろ」
「オレはショウの心配して言ってんの」
「心配される程の事した覚えないし」
“アキちゃん”は、今まで俺を騙していたんだ。
そんな奴に心配されたって…
「とにかく、そういう事は俺が自分で決めることだし、…ッ!?」
急に肩を押されて、ぐるりと世界が回る。
ドサリとベッドに押し倒され、アキラくんの瞳が俺を見降ろした。