相合傘

余りの包帯がアキラくんの手から零れ落ち、コロコロと転がって白い道を作った。
怒っている様な表情に、光を反射する冷たい目は、俺を一線に見つめる。

…なんだよ、その目。
…ムカつく。

「あのなぁ、ああいう場面でショウが女だってバレたら、それこそどうなるか分からねぇって言ってんだよ」

「…ぜ、絶対に、バレない。ていうか離せよ」

いくら今まで接してきた“アキちゃん”でも、感じる恐怖は他の男と…変わらない。

「ヒロヤってヤツ、勘付いてた。お前だって分かるだろ?男と女は全然違うんだよ」

モノの考え方、体、力も全然差がある。
ぐっと俺の体を押さえ付ける腕に手を掛けて、俺から離そうとした。
けど…

「それ、精一杯?オレは軽く押さえてるつもりなんだけど」

「……」

力いっぱい押し返すけど、ビクともしないその腕。
ギッと睨みつければ、気にくわないという様な顔をして腕を離される。
俺はやっと体を起こした。

「…そんな泣きそうな顔すんなら、止めとけ」

転がり落ちた包帯を巻きながら、アキラくんはちらりと俺に視線を寄こした。
そして、ちょっと罰の悪そうな顔。

「…そんなに、怖いんだな。…オレでも」
 
ポソリと呟かれた言葉はとても小さかったけど、ハッキリ聞こえて。
俺は下げていた頭を反射的に上げて、薬が入った籠を棚に直す後ろ姿を見た。
仕舞い終えると、アキラくんもこっちを見て言った。

「…騙すつもりは、オレの方もなかった」

水の入ったペットボトルを手にとって、こくんと一口飲んで、窓に目をやるアキラくん。

「急にショウの部屋に行かなくなったのは、この前出掛けた時、帰りに男に絡まれたじゃん」

その時の怯えきった顔見たら、いたたまれなくなって、ついあの男たちを殴ってしまった。
それで思ったんだ。

「オレも男だから。“アキちゃん”としてショウに接することはもう出来ねぇなって」

ショウが、本当の“アキちゃん”を知ったら嫌な気持ちになるだろうから。



「だから、ショウの前から消えるなら、今ぐらいがちょうどいいって思ったんだ」


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