死に神の涙
「やぁっと見付けたわ」

暗闇から声がする。
声の主を見るが暗闇で見えない。

「おい、苅麻よう。怒りに身を任せるなとあれほど言ったがなぁ?」
「…誰?」
「知らないっす」
「苅麻先輩の知り合いみたいですけど…」

苅麻は声の主を見るが襲おうとはしない。

「まぁ良いわ。これ以上暴れられるのも困るしな。悪いが寝てもらうぞ」

苅麻の体にツタが素早く巻き付く。
どこから出て来たのか、いつ出て来たのか全く分からなかった。

「ほう…この業は奴か…」

声の主…スーツ姿の男が苅麻の頭に指を当てながら言う。
苅麻は全く身動き出来ない。

男が小さく何かを呟く。

すると苅麻の翼は消え、牙も無くなる。
やがて苅麻の体が力を無くして倒れる。
ツタはもう巻いていない。

「これで大丈夫だ。後はそちらで構ってやれ」
「ちょ、ちょっと!」

宇佐兎の制止を無視して男は姿を消す。
跡形も無く。
音も無く。
< 41 / 60 >

この作品をシェア

pagetop