白い月〜destiny〜
「あなたが先ほど見ていたその肖像画は私なの。あの頃は幸せだった。その絵は私がお嫁に行く少し前に記念に描いてもらった物なの。いいえ 正確に言えばお嫁に行くはずだった…だけど。」

「…。」

私は口の中が渇いていくのを感じていた。

「当時 この家には父も母もいて 一人娘だった私は大切に育てられた。私には愛する人もいて…あの頃はなにもかもが輝いて見えた。」

母の目にはその頃の情景がまるで見えているようだった。

「私の父にはおかかえの運転手がいたの。そしてその人には私と同じ歳の息子がいて その息子は時々この家に出入りしていたのよ。」


母は自分の体を抱きしめて震えだした。

「結婚式の一週間前 私は部屋で一人 ドレスを着た自分を鏡に映して幸せに浸っていたの。その時部屋のドアが開いて…立っていたのは運転手の息子 あの男だった。」


私はその後母がどうなるのか わかった気がした。

めまいがしそうだった。

もう…もうこれ以上言わないで!


声にならない心の声だった。

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