【企】ひびき
ところが。
や、よく考えてみれば当然なんだろうけど、やっぱりその男の人は毎日、それもあたしより遥かに早くバスを待っていた。
そしていつのまにかバスを待っている間は、その人のことを観察するようになっていた。
たとえば、今日の本は何だとか。
今日は列の何番目に並んでいるかとか。
で、たまにその人が振り返り目が合うとかなりドキッとしてしまう。
10月から駅の下のバス停からも高校に行けるようになったが、私はそっちを選ばず、相変わらずちょっと歩いたところにあるバス停でバスを待っていた。
元々不便な場所にあったバス停で、駅にいくつか新しくバスが来るようになると、あの長蛇の列がウソのように消えてしまった。
・・・その人を除いては。
多分、駅よりもここのバス停の方が家から近いんだろう。
それでもその人の方が私よりずっと来るのが早かった。
私とその人の8分だけの2人っきりの時間。
言葉を交わすでもないし、ましてや意識などするわけもないだろう。
でも、あたしだけ本を読んでて気付かないのをいいことに、しょっちゅうチラッチラッとそっちの方を見ていた。
・・・そう、気付いたらあたしはその人のことを好きになっていたんだ。