君だけに夢をもう一度
「いきなり、バンドのメンバーに入らないかって言われたから、少し驚いちゃった」

敦子は、正和が手にした空(から)のグラスにワインを注ぎながら言った。
ワインが一本空いた。

「あの時は、たまたまキーボードを弾けるメンバーを探していたからね。シンセサイザーが弾けたら、下手でもメンバーに入れてみようかなって思ってたんだ」

「そんなことだったの」
敦子は、苦笑いをした。

「でも、初めて聞いた君の演奏は完璧だと思った。自分が知っている鍵盤楽器の奏者にはない、何か不思議な活力みたいなものが感じられたんだ・・・・・・」

「・・・・・・」

「正直、自分のやる音楽にはない感性みたいなものが、君にはあるような気がした」

「そうだったの・・・・・・でも、初めて聞いたわ。正和がそんなこと思っていたなんて・・・・・・」
敦子は、照れながら言った。

「ねぇ、どうして、付き合ってた頃には、そんな話をしてくれなかったの? 」

「どうしてって・・・・・・」
敦子が責めるように尋ねてきたことに、正和は返事に困った。

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