君だけに夢をもう一度
二人は、渋谷駅前でタクシーを降りた。
店はセンター街の雑居ビルの中にある。

正和にとって、駅以外は、なにひとつ面影が残っていない街並に変わっていた。

「こっちよ」
敦子が声をかけた。
群がる人の中を、正和は避けるようにして敦子の後を歩いた。

「ずいぶん変わってしまったな」
正和は、記憶をたどりながら歩いたが、以前とは違う建物に変わっている。

「10年も経てば変わるわよ」
「そうだな・・・・・・」
正和は、自分がこの場所を訪ねていた頃が、遙か遠い昔のように思えてくる。

「着いたわ」
敦子の言葉で、正和が足を止めた。

ビルは壁の色こそ変わっていたが、以前のままの造りだった。
二人は、ビルの一階にあるネオンの看板を見た。

「あった!」
敦子が感激して声を出した。

声こそ出さなかったが、正和も看板名があって嬉しかった。

『サラ・ジェーン』、二人がよく通った店の名前があった。



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