君だけに夢をもう一度
「もう一杯、お作りしましょうか? 」
千賀子がグラスを置いた正和に飲み物を尋ねた。

「えぇ・・・・・・同じものを御願いします」
正和が答えると、千賀子がグラスを手にして氷を入れた。

「あっ! そうだ」
千賀子が急に何かを思いだしたように、水割りを作るのをやめた。
身を低くしてカウンター下に置いてある、黒皮のトランクケースを取り出してカウンターの上に置いた。
そして、中から大学ノートを取り出した。

千賀子の態度を追いかけるように、正和と敦子が見ていると、二人の視線を千賀子は感じた。

「ご免なさい。すぐに水割りを作りますね」
千賀子が正和に水割りを差し出した後、大学ノートを手にした。

「良かったら、お二人のお名前を教えていただけませんか? 」
千賀子が何かを調べるように、ノートを見ながら言った。

「僕は、山本です」
「私は斉藤です」
二人が答えると、千賀子がノートをめくり始めた。

「山本さんって・・・・・・山本正和さんですね? 」
「えぇ、そうです」

「斉藤さんは・・・・・・斉藤敦子さん? 」
千賀子が敦子の顔を見た。
「えぇ、そうよ」

「お二人は青学の軽音楽部出身なんですね? 」

正和と敦子が互いの顔を見合わせて、「そうだよ」と、二人が同時に同じ返事をした。


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