君だけに夢をもう一度
敦子は、プロのミュージシャンになる夢を一度は捨てた。

敦子が大学四年になった時、正和は大学卒業後も就職をせずにライブ活動を続けていた。

敦子も正和と一緒にバンドでライブ活動を続けていた。

ちょうど、その頃、正和の歌に興味をもつ女性が現れた。

彼女は、大学生で正和のファンだった。

彼女は、よく正和のライブに顔を見せるようになり、正和とも親しく話すようになった。

彼女の父親は、名の知れた音楽プロデューサーだった。

彼女は、正和が作った音楽を父親に紹介したいと言ってくれた。

正和にとっては、デビューできるチャンスだと思い、たびたび彼女と個人的に会うようになった。
そのことが敦子にはおもしろくなかった。

正和は、彼女とは何もないと言っていたが、かなり彼女に入れ込んでいたことはわかっていた。

彼女には、敦子にはない女性の魅力を持っている。
正和の前で、わざと甘えてみたり、弱い女性を演じたり、男心を誘惑する手だてを知っている。

その頃の敦子には、彼女のような女性にはなれなかった。
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