君だけに夢をもう一度
それからも正和は、音楽活動をしてプロを目指したが、なかなかチャンスに恵まれなかった。

そんな時、もう一度、敦子と一緒に音楽をやってみたいという気持ちが強くなった。

敦子には、そばにいて欲しいと素直に思った。

思うように歌が作れない時、いつも敦子は、自分のそばでアドバイスをしてくれた。
思ったように歌が作れた時、敦子は笑顔で喜んでくれた。

離れてみて、わかったことがある。

それは、誰よりも敦子のことを好きだということだった。
一番、大事な女性を簡単に手放したことを、今になって後悔した。

もう一度、敦子と一緒に音楽をやりたい。
その気持ちを伝えようと、横浜まで行ったことがあった。

夕暮れ間近、正和は、敦子が勤務する中学校の校門そばで待っていた。

やがて、敦子は同じ年齢ぐらいの男性と一緒に校門から現れた。

敦子はその男性と親しそうに話している。

思わず正和は、身を隠すようにして、二人には見えないように校門の壁に隠れた。

男性が、敦子にクリスマスイブの夜はレストランを予約したことを告げた。
敦子も嬉しいそうな表情で約束をしている。

正和は、その光景を目にした時、敦子には音楽ではない幸せを手にいれようとしていることを感じた。

正和は敦子に声をかけることもなく、二人の後ろ姿を見ていた。

その後、正和は音楽への道をあきらめることを決めた。

自分は、音楽の才能はない。そのことがわかった。

敦子と一緒に音楽をすることで、自分の才能を発揮できていたことを感じた。
敦子がそばにいないと、音楽をやる気持ちにもなれないこともわかった。
そう思った時、正和は東京にいる目的がなくなった。











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