彼と彼女の方程式
そうだ、きっとそうだ。
風邪を引いたに違いない。
だって、あり得ないもん。
湊にドキドキするとか…おかしいもん。
「…遥?」
名前を呼ばれてドキッとしてしまう。
おかしい…。
『…か、帰る!!』
「はっ…!!?っおい!!」
背を向けたままそう言ってソファーに転がっていた鞄を掴み足早に玄関に向かった。
家で寝れば治るかも。
うん、そうだ。
疲れてるんだ。
とにかく急いで靴を履いて玄関を出ようとしたけど、やっぱりそこまで甘くなかった。
「おい、ちょっと待て。」
声と共にガシッと腕を掴まれた。
それも力強く、逃げられないほど強く。
『…あ、ありがとね。ははっ、あたしお礼するの忘れてたよね。』
湊の声が不機嫌なのはわかった。
お礼を言われてないから怒ってるんじゃないって事もわかってた。
「…遥。こっち向いて。」
わかってる。
素直に言う事聞けるならとっくにやってる。
でも、どうしても嫌だった。
こんな顔見られるの。