気まぐれお嬢様にご用心☆
「さてと!そろそろ帰るか」
最初に言ったのは千晶だった。彼は立ち上がると少しずつ歩き始めた。
彼の後を追うように翼と楓も席を立ち上がった。

しかし……この後、最悪の事態が俺に降りかかる。



「あれ?この車……もしかして」
楓が俺を不安にさせる一言を放つ。

誰か屋敷に来ているのか?
今のこの俺の恰好を他人に見られるのはまずい。

すごくイヤな予感がするんですけど……。


「久しぶりっ!!」

「伶っっ!!」
屋敷に着いた俺たちをロビーで迎えてくれたのは見知らぬ青年だった。

楓に『伶』と呼ばれたその青年は俺の顔を見てウィンクをしてきた。
うわ~っ!この定番のお坊ちゃん的オーラ。
俺はどう反応したらいいんだっ!

「こちらは従兄の藤崎伶(ふじさきれい)。夏休みにいつも遊びにくるの。しかもいつも翼狙いでっ!!」

「そうなんだ……初めまして、波柴千晶です」

「千晶ちゃんか~君、かわいいね」

……『ちゃん』?
そっか……俺、女の姿だったんだ。
まぁ、いっか。今更男になる必要もあるまい。
それにこいつも長居しないだろうからな。

「あっ……どうも」
かわいいと言われてどう反応していいのか迷ったが、思わず照れている自分が居た。

「伶!その女たらしの性格なんとかしなさいよ!!それに千晶はおと……こ」

「うわ~っっ!!いや~今日は暑いですねぇ~!!」
咄嗟に千晶は彼女の言葉を隠す。

「(俺が男ってことは秘密って言ったろ)」
楓の耳元で囁く。

「(だって……あんた伶の性格知らないからそんなこと言えるのよ。どうなっても知らないからね)」

どうなっても……って大袈裟な。

「翼……」
ふと黙ったままの彼女に目をやると俯いたまま、

「千晶……ごめん」
と一言残し自分の部屋に行ってしまった。

この時の俺は彼女の心情が読めずにただただ後ろ姿を見つめるだけだった。
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