気まぐれお嬢様にご用心☆
俺はとんでもない決断をしてしまったのだろうか──?

その『答』はまだ……分からない。


「じゃあ、これはその『しるし』」

……楓?

彼女はそう言うと優しく俺にキスをした。

重なり合う口唇。

あの時とは違う……感触。
それは……きっと、

心が通じ合えたから──?


ニャ~っ。

アリス……?

翼の愛猫のアリスが、半開きになっていた扉を身体でくいっと押しながら入ってきた。

何故アリスがここに居るのか?それが理解できた時には、全てが遅かった。


翼……。
見られてた?今の──。


彼女はアリスを置き去りにしたまま走り出す。

「翼っ!」
俺は無意識に彼女の背中を追いかけていた。


「待てよ!」
彼女に追いつき必死で手首を掴んだ。その力はとても強くて重い。

「放してよ」

「放さない。俺の話を聞いてくれるまでは」

「楓のことが好きなんでしょ。今更言い訳?そんな事、私には関係ない!千晶が誰を好きだろうと私には関係ないじゃないっ!」

「だったら!どうして!逃げるんだよ!俺から逃げようとするんだ!」

「それは……」

「楓から聞いたよ。翔さんが好きだってこと。楓は……お前が好きだと知って別れたんだよ」

「?!」

「お前はまだあの人のことが好きなんだよ……俺には分かる。……自分の気持ちに嘘をつくな」

自分の気持ちに『嘘』。

それは──俺にも言えることなのではないだろうか?


「私は……」

「行けよ、翔さんのとこに」
俺はあの人とは争う気はない。何故ならお前の中にはあの人がいるから……。それを忘れさせることはできない。

「千晶は楓のこと好きなの?」

「……好きだ」
俺はゆっくりと彼女の腕を解き放した。
それ以上、拘束する権利はないと思ったから。

翼が何を言おうしたのかは分からなかったが、今の俺には彼女を好きでいる資格はない。
楓のこと好きになるって決めたから……。裏切ることはできない。

彼女の温もりが残っていた右手を見つめながら、俺はグッと握りしめた。
< 38 / 83 >

この作品をシェア

pagetop