婆ちゃんの恋物語
今、記憶にしっかり残ってるのは、手と笑た顔。ほんま、兄弟揃って、今で言う、イケメンでしたな。
はぁ、イケメン知らんて、男前ですがなあ。
キミさん、温くなったお茶を、喉を鳴らしながら飲んで、
フウッとため息つきながら俯いて、また話始めてんけど、



7月24日の空襲は、近所が、燃えてしもて。次の8月14日の空襲も、燃えた街を撫でるように、爆撃して行きよったから。
焼け残った家も、バラックも、また、火に呑み込まれてしもたんや。
8月15日の終戦の玉音ラジオは、お婆ちゃんとお母さんと千代ちゃんと4人で、
学校の講堂で、聞いたわ。泣いてるおっちゃん
赤ん坊あやす若い女の人。
気の抜けたお婆さんは、腰も抜けたみたいに、口をポカンとあけてた。

天皇さんの声って、普通の声やなあなんて、ボーっと聞いてたんやわ


終戦になって、昭雄さんも、顔出してくれるやろうと、わたし、待ってたんやわ。周りの家が、バラックを建てて行く中、千代ちゃんは、遠い親戚の叔父さんに、連れられて、丹波の方へ行く事になったん。
まだ、元の千代ちゃんには、戻ってなくて、別れる時も、下を向いたまま。
「さいなら。」

一言しか口からでえへんかった。
長々と叔父さんの挨拶の間、手を繋いでたんやけどな。
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