婆ちゃんの恋物語
会いたくて逢いたくて、たまらなくてなあ。
それからも何度も、昭雄さんの家の前まで行ったんよ。

ひょっこり、顔見せてくれるのを、ほんまに願ってたんや、

大工さんが、焼けた柱やら戸板をはがして、解体を始めてはった。


「すいません、此処、家建てはるんですか?。」
「ああ、地主さんは、すぐに、元通りや。」

「地主さんは、今どちらに、済んではるんですか?。」

「姉さん、知り合いか?」

「はぁ、少し。」

「天王寺の方に居てはる。」

「住所教えてもらえませんか?。」

微かな望み、いいや、その時は、光が刺した気がしてた。いらない木切れに、墨壷で、住所を書いてくれたんよ。

私、その足で歩き始めてたんや。二時間ぐらい歩いた気がしたわ。
お母さんにも何もいわんと、歩いてる事が、気になってたけど、それより、会いたくて、心配で、不安で、足が先へ、先へと、進んでたんや。
今、地下鉄やったら、何分やろか、あっという間やなあ。
よう歩いたで、足が、痛くなって、何回も休憩したし、勢いだけで歩いてたんや。天王寺辺りに着いたんやけど、ようさんお寺があって、住所に書いてあるお寺が、どこやろか、生玉寺町…。

門の表札を一つ一つ見ながら、探してたら、
ちょろちょろ、小さい男の子が、出たり入ったりしてたんや。

「こんにちわ、此処に、昭雄さんっていてる?」
「お兄ちゃんは、おれへん、おばちゃん、寝てるで。」
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