婆ちゃんの恋物語
推測は、出来てんけど、ほんの少しの希望を求めたんやな。

「昭雄は、14日まで元気でした。7月24日の空襲で、妹が、えらい火傷しましてな、
屋敷も、見はったとおりで、焼けてもて、
あんたに、会いに行く言うてたんやけどなぁ、
住所を一時此方に移した途端、学徒動員になってしもて、あのまま、住所置いとったら、
私がアホな事してしまいましたんや。」
昭栄と言う、昭一郎に、似た初老の住職が、涙を流しながら話してはるん聞いて、
実感の無い絶望が、頭の中で、ぐるぐる回り始めて、うち消せない。

「くたくたになって帰って来てましたわ。
そいでも、妹には、元気そうに話してました。
あんたの話を、親子で楽しそうにしてましたで、昭雄の好きな糟汁やら、煮物を、きみさんに教えてあげないとあかんなとか、
妹には、娘おりまへん。二人の息子が恋した娘さん。
初めは、嫉妬してたみたいやけどな。
あんたに会うて、娘が一人出来たとえらい喜んでたみたいですわ。
此処に、避難して来た時には、空襲で受けた、火傷が酷いんでそない長い言われてしもて。
8月14日以降、昭雄が、もうおれへんとは、よう言えへんで、あんたとこに行ってると話てしもたんです。すいません。」
涙が、ポタポタ落ちてきてた。
「昭雄さんは、」
言葉が出ない。声にならない。
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