婆ちゃんの恋物語
相変わらず、雑務が多くて、事務は、年配の元々の職員さんが、手際ようこなしてはった。

うちは、お茶くみさん、麻ちゃんは、お掃除さんと呼ばれて、その名の仕事に励んでたんやけど。


「本日を持って、佐伯君、城中君は、退職して出征される事になった。
お国の為に、しっかり、戦って来て貰いたい。、二人の健闘を祈り、万歳三唱を行う。
佐伯昌太郎君、城中勝哉君、万歳、万歳、万歳。」

朝礼の挨拶は、出征の祝いに変わってた。

山田少尉の変わりに、大谷さんが、何時もの濁声で、仕切っていた。

大谷さんは、50になってるんやろなあ。赤紙には、無縁みたいやし、此処の元社員らしい。

軍の管轄に入ってから、山田少尉が、所長として入って来たんやて、

山田少尉は、大阪商科大学卒業の主計将校さんやねん。
うちらより、4つ年上やけど、大谷さんも頭上がらないみたい。

その、大谷さんが、明日から、事務所の二人が居なくなると、事務の仕事も、廻って来るからと、山田少尉に聞こえないように、囁いた。


「お茶くみならぬ、お湯くみのままで、ええのになあ。」

「うちも、掃除してる方が気が楽やわ。」


昼休み、ふかし芋を食べながら、木材の上に腰を下ろして、二人で今朝の話をしてたん。


「芋かあ、此、食べるといい。」

知らぬ間に、少尉さんが、麦飯の握り飯を運ばせてる捕虜兵を止めて、2つ、うちらにくれた。

「もうて、ええんですか?。」

うち、手に置かれた握り飯見ながら、敬語使わんと聞いてもた。

麻ちゃん、うちの顔を穴が開くぐらい見て、目を白黒させてたわ。

「かまわんよ。温いうちに、食べたらええよ。」

返って来た言葉は、意外やったわ。

「貴様、誰と話してる。」
って、怒鳴られると思てたからな。

事務してた、佐伯さんも、城中さんも、敬語をちゃんと使わへんかったら、怒鳴ってたから、
拍子抜けしたわ。

「巧、それ、皆で分けて食べておいで。」

「少尉殿の分残して後で、お持ちします。失礼します。」

捕虜兵と言うけど、巧と呼ばれた男性は、うちらと、歳は、たぶん近い、男性と言うより、男子やった。
後でわかるんやけど、彼は、捕虜兵ではなく、強制移民家族の一人やってん。
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