【短】君の瞳に…『ホタルの住む森 番外編』
驚いていると、少し先に見覚えのある車が停車しているのが見えた。
まさかと言葉を失っていると、携帯で話しながら晃が車を降りて近づいてきた。
『ねぇ、陽歌。この場所は君の知っている茜の記憶の中にある?』
携帯から聞こえる声とは別に、同じ台詞が直(じか)に耳に届くのを、夢でも見ているような気持ちで聞いていた。
唖然とする陽歌に、晃は笑いながら「この距離じゃ必要ないね」と携帯を閉じた。
何故ここがわかったのかと必死に思考をめぐらせて見るが、すっかり混乱している陽歌には見当もつかなかった。
「アハハ…驚いた顔をしているね」
「ウソ…どうしてここが?」
「ん? ここの位置なら陽歌の携帯のGPSで確認したんだ。
君が亜里沙さんを探して何処をどう移動していたのか、この三日間の行動を話してあげようか?」
「…っ、まさか、ずっと位置確認をしていたの?」
「うん、まあね。でなきゃとっくに帰って来いって無理矢理でも連れ帰っていたさ。…心配だからね」
「ごめんなさい。心配をかけて」
「いや、それより…さっきの質問の答えが欲しいな」
「質問って…あ、この場所が記憶にあるかって?」
「うん、覚えているのかな?」
「ん…何となく来た事があるなって…」
晃は陽歌の手を取ると森の中へと進んでいった。
迷いなく歩く晃の後を必死についてゆくうちに、懐かしい記憶の断片が蘇ってくる。
少し歩いた先に開けた場所があり、そこからの光景に息を呑んだ。