【短】君の瞳に…『ホタルの住む森 番外編』
瑞々しい緑に囲まれ美しい清流が水を湛えた、神々しいまでに幻想的な風景が広がっている。
「ここは…」
「桜の季節では無いけれど…綺麗だろう?」
「あ…っ、あの桜の…ここがそうなの?」
「うん…」
晃は陽歌を抱き寄せると、静かに目を瞑った。
風が緑の葉を擽り、クスクスと笑い声のように優しい音を立てて二人を包み込む。
陽歌は瞳を閉じ、自分の中に眠る記憶を引き出し、心に描いた光景を目の前に広がる景色に重ねていった。
降りしきる桜吹雪
目の前にそびえる崖の中腹には見たこともないほど大きな桜の木が大きく両手を広げ、風が吹くたびに枝葉を揺らし、サラサラと優しい音を奏でている。
あの時この枝には満開の桜が花を散らして足元の川面に降り注いでいた。
流れる清流には、たくさんの桜の花びらをまとい光に煌きながら流れていた。
水の流れに緑の葉が漂い揺れる目の前の光景が、あの日散った桜の花びらに重なった。