【短】君の瞳に…『ホタルの住む森 番外編』

「桜は散るために咲くんじゃないんだよ。 精一杯咲いて、愛して愛されて、時が満ちた時に散るんだ。…僕は茜にそう言ったんだ」

「うん…覚えているわ」

「茜はまだ、愛することも愛される事も十分ではなかった。だからこそこうして陽歌と一緒に還ってきたんだ」

「うん、そうよ。今度こそ一緒に幸せになるの。私には…あの日伝えられなかった言葉があるの」

「陽歌…?」

「愛しているわ…あなたを誰よりも愛してる。あなたはあの日この場所で、私に「愛している」と言わせたがったけれど、私にはどうしても…本当の気持ちを伝える事が出来なかった」

陽歌の言葉に晃はハッとした。彼女の中の茜が陽歌を通して話しているのだ。

「茜…?」

「ううん、私は陽歌よ。でも茜でもあるの。私たちは二人で一人だから…晃さんは二人分の愛情を受け止めてね」

星を散らしたような黒の瞳。晃はその中に確かに茜が息づいているのを感じた。
長い時を経てこの手に再び還った愛しい女性の魂を、万感の想いを込めて抱きしめる。
陽歌は晃の深い想いを全身で受け止め、抱きしめ返した。

「ずっと一緒よ…晃…」

「ずっと一緒だよ…茜。君はここに残した想いを僕に伝えてくれたんだね。ありがとう」

陽歌の瞳を通して見つめてくる茜に晃は優しく微笑んだ。

それからフ…と表情を悪戯めいたものに変え、少し意地悪に言った。


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