【短】君の瞳に…『ホタルの住む森 番外編』
4.君の瞳に
夏の朝の清々しい風が丘を吹きぬけ、朝露に僅かに湿った芝生から青い草の香りが立ちのぼる。
まだ朝靄のかかる時間。太陽は徐々にその姿を雲の切れ間から現そうとしていた。
あと少しすればこの丘は金色に染め上げられるだろう。
薄明るい空が徐々に明るく茜色に染まってゆくのを、晃と陽歌は見詰めていた。
あの後も亜里沙を捜し続けた陽歌だったが行方は分からなかった。
一ヶ月以上たっても行方の知れない亜里沙に、もしや事故や事件に巻き込まれたのではないかと最悪の事も考え始めた矢先、無事見つかったとの連絡が拓巳から入ったのは昨日の深夜。
陽歌が朝一番の電車で亜里沙の入院先へと向かう決断をしたのは当然だった。
ようやく見つかったと大喜びの陽歌を見て、実は晃もホッとしていた。
結婚してからひと月半、亜里沙を探す為に留守にしがちだった陽歌に晃は殆ど構ってもらえなかったのだ。
自分も忙しさに陽歌を放っておいた事は棚に上げ、いざ一緒に時間を過ごそうとすると陽歌が構ってくれないという状況に、晃は自分の行いの悪さを戒められた気がして何気に凹んだりしていたのだ。
亜里沙が見つかり陽歌も落ち着けば、少しは夫婦らしく新婚生活がスタートできるのではないかと、密かに甘い期待をするのだった。