【短】君の瞳に…『ホタルの住む森 番外編』
「陽歌、本当に送らなくてもいいの?」
「うん、荷物もそんなにないし、駅までだってそんなに掛からないわ」
「でも、せめて駅まで送っていこうか?」
「ううん、大丈夫。朝の空気は気持ちが良いし少し歩きたいから」
「そう…。亜里沙さんの事が片付いたら、今度こそ時間を作って新婚旅行へ行こうね」
「そうね。楽しみにしてるわ。でも…」
「クス…もう陽歌の為に診療所は閉めるなって言うんだろう? わかっているよ。連休の時にするから大丈夫」
「よかった…。じゃあ、行ってきます。拓巳の奴、一発殴ってやらなくちゃ!ああ腕が鳴るわっ♪」
本気で腕を振り回す陽歌に、晃は引きつりながら言った。
「……まあ、拓巳君が怪我をしたら僕が診るから連れて帰って来るんだな。一応覚悟しておくよ」
晃の声は陽歌がバキッと鳴らした指の音と重なった。
苦笑する晃の額を冷たい汗が流れていく。
陽歌に晃の声が聞こえていたかどうかは、定かでは無い。