【短】君の瞳に…『ホタルの住む森 番外編』
暁にしてみたら、つい先日まで死別した母、茜を想い続け、自らの死の淵での再会のときだけを願い、思い出の中に生きていた父の姿を思うと、今の姿はとても微笑ましい。
愛する妻の魂との再会だけを望み続けた父の愛情の深さは尊敬に値するものがある。
だからと言っていつまでも思い出の中の住人では茜も浮ばれないだろうと、幼い頃から暁は子供なりに心配していたのだ。
その父が長い孤独と、心の空虚を埋めてくれる相手にようやく巡り逢えたのだ。
その相手が母、茜の魂を宿しているのだからこれ以上申し分のない相手でもある。
陽だまりの中で愛する人と生きる幸福を手に入れた晃を、暁は心から祝福していた。
しかし、仕事の忙しさから、結婚してからも晃は新婚旅行は愚か、ゆっくりと陽歌と過ごす時間すら取る事が出来ていなかった事に、暁は苛立ちを感じていた。
慣れない生活に戸惑う陽歌に対する気づかいが足りないだろうと、晃に対して少々怒りも感じていたときの出来事だったのだ。
全く、我が父親ながら、あの能天気振りには呆れてしまう。
ノンビリなのは良いが、もう少し危機感をもったほうがいいのでは無いかと常々思う。
ここぞとばかりにお灸を据えてやろうと暁が動いたのは必然の事だったのかもしれない。
しかし、人当たりが良く、誰にでも八方美人で危機感がないように見えるのは、実は暁も同じなのだが…。
本人は絶対にその部分を認めたくないらしい。