【短】君の瞳に…『ホタルの住む森 番外編』
冷静になれば最初から暁の言葉にも違和感があったと分かりそうなものだったのだが、それに気付かないほど自分が冷静さを欠いていた事を目の当たりにした照れと、暁の策に嵌った事への苛立ちが八つ当たりと言う形で暁に向けられていた。
だが、確かに暁の言った事も一理ある。
晃はベッドに深く沈みこみ、陽歌と出逢ってから今日までの事を思い返してみた。
僕たちは知り合ったばかりで互いの事を良く知らない。
いや、正確には僕は…だ。
陽歌には茜として僕と過ごした記憶がある。
その為か陽歌は僕の事を何もかも受け入れているように思う。
茜の魂を持ち、彼女の心と愛を共有し僕に真っ直ぐに向かってくる陽歌は僕にはとても眩しい存在だ。
互いを結び付けている『茜』という確かな絆が、僕たちの余りに早い結婚を可能にしたのであって、僕自身にとって陽歌はまだ未知数なんだ。
茜であって茜では無い彼女。
僕は彼女に茜の記憶がある事で、どこか安心して甘えていたのかもしれない。
暁はそれを感じていたんだろうな。
手紙を読み返し『今朝も話す時間が無かった』との行(くだ)りに胸が痛んだ。
ごめん、陽歌…。
結婚したばかりだって言うのに、放っておかれてきっと寂しかっただろうね。
「新婚旅行か…1週間は無理でも連休を利用すれば4日くらいなら何とかなるかな。」
陽歌の喜ぶ顔を思い浮かべつつ、晃はカレンダーに目をやった。
もちろんその間も、暁への反撃をどうしようかと策をめぐらせていた事は言うまでも無い。