【短】君の瞳に…『ホタルの住む森 番外編』

更に晃と連絡がつかないことが陽歌を不安にさせていた。

家を出た夜から、何度か携帯を入れたが電源が入っておらず、自宅の電話は話中でタイミングが悪く繋がらなかったのだ。

何も言わずに出てきた事を、晃は怒っているのではないか。
だから携帯を切っているのではないかと、晃への罪悪感は不安は時間を追うごとに大きくなった。

今日は流石に一度家に帰ろうと決めていた陽歌だったが、最後に訪れたこの場所に何となく見覚えがある気がして、帰る前に少し散策してみようと、記憶の奥底を探るように歩いていた。

今でも時々茜の記憶が蘇る陽歌は、この場所も茜と晃の記憶に纏わる場所なのかもしれないと直感で感じていた。


その時不意に、晃と結婚する事を告げたときの亜里沙の言葉が蘇った。

「陽歌、本当にいいの?後悔しないの?」

あの夢を見続けた理由を知って、かなりのショックを受けた亜里沙は、結婚を決意した陽歌に更に大きなショックを受け、何度も後悔しないのかと繰り返した。

「陽歌は夢の中の彼に恋していたんでしょう?それが茜さんの記憶だったというのなら尚の事、陽歌は茜さんの代役でしかないとどうして言い切れるの?」

拓巳の恋を親友として応援していた亜里沙には、それが陽歌にとって一番の幸せなのだと解っていても、結婚の事実を素直に喜べない部分があった。

しかも陽歌と晃は出逢って数日で結婚を決意したのだ。

男性に対する警戒心の強い陽歌には考えられない事でもあり、まるで陽歌の意思ではなく茜の魂に導かれているようで、陽歌を心配する亜里沙にとっては、何もかもが不安要素だった。


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