私が天使だったころ
私は妊娠の事実を確かめたくて、バイトを休んだ。

薬局に行くと生理用品の近くに走っていく。

(妊娠検査薬)

回りに人がいないのを確認すると慌てて手に取ってレジに持っていく。

紙袋にはいった検査薬を乱暴に鞄に入れると家に帰った。

「お帰りー。早かったな」

克也の声を無視してトイレに駆け込んだ。

説明書に目を通す。

(お願い…できてないで…)

コンコンッ
「奈々ー大丈夫か?」

私はドアをあける。

「どうした?」

克也が頭をなでる。克也はニッコリ微笑んで手を引いた。

「………」

「どうした。気持ち悪いか?」

克也が心配そうに見ている。

「克也…」

「ん?」

目から涙が溢れた。

「−妊娠したの…」

克也から笑顔が消える。私は検査のスティックを克也に見せる。
スティックには+という印がでていて、隣に『+ 陽性 − 陰性』と書いてあった。

「それ…って…もしかして」

「うん…あの時の…。3人のうち誰が父親かはわからないけど、間違いなく克也じゃない…」

克也は拳をにぎりしめると何度も壁を殴り続ける。克也の手から血がでていた。

「やめて!」

克也の拳を体全体で押さえると、しばらくして克也が動きを止めた。

「私…正直怖いんだ。子供なんて考えたことすらなかったし…急に父親のわからない子供が出来たなんて言われても、どうすればいいのかすらわかんないんだ…」

克也は背中をむけたままだった。

「でもね…実際いるんだから…嫌とか怖いなんて言ってちゃダメだよね。
父親はわからないけど…ママは私なんだから!」

克也が振り向いて見つめてくる。目付きが怖くて泣きそうになった。

「無理だよ」

思わず言葉を失う。確かに子供は克也の子供じゃない…冷静に考えれば子供ができた事を喜んだり悲しんだりするわけない。それは私達が『同棲しているだけ』だからだ。

でも、もしかしたらと期待していた分、断言されたのが受け入れられない。
< 16 / 22 >

この作品をシェア

pagetop